3月決済企業の格付け作業が、佳境を迎えています。
金融機関では、与信先(貸出先等)から決算書の提出を受け、これを基に「(企業)格付け」作業が実施され「債務者区分」の見直しを行います。
「債務者区分」とは、企業の信用状態をランク付けするもので、大きくは「正常先」「要注意先」「要管理先」「破綻懸念先」「実質破綻先」「破綻先」に分類します。その判断材料は、財務情報だけではありませんが、これが重要要素であることは間違いありません。
金融機関体力の低下は免れない
周知のとおり、緊急事態宣言による自粛の影響をうけ、多くの企業で売り上げが減少しています。もっとも、3月決算企業の場合、緊急事態宣言期間を含む4,5月は未反映ですが、それでも、売上高の減少は5~7%程度、利益水準に至っては40%内外の減少が見込まれますし、もとより利益額の小さい中小零細企業では、赤字転落の企業も少なくないでしょう。
また、多額の借り入れを行って当面の資金を確保した企業も多いことでしょうが、これによってバランスシートはかなり傷んだ状態になっているはずです。
いずれもコロナ禍の中ではやむを得ない事態、あるいは正しい行動ですが、会計的には負の事象であることは事実であり、この結果、相当数の「債務者区分変更」、ランクダウンの発生が予想されます。
そして金融機関には、債務者区分ごとの貸付残高(保全勘案後)に応じた「引当金」の計上が求められますので、与信企業の格下げが増えれば、「引当金」の増加は避けられません。
金融機関にとっては、実際の倒産による損失と、この引当金が「与信コスト」と呼ばれる費用になります。長期に及ぶ超低金利政策に伴う収益環境の悪化から、ただでさえ体力が低下している金融機関が、与信コストの増加によってさらにその体力を削がれれば、融資に対して保守的な姿勢をとらざるを得なくなります。
金融機関内部で、3月決算企業に対する格付け作業の結論が出るのは今、来月が“ヤマ”ですが、早ければこの段階で、融資姿勢に変化が出てくる金融機関もあるかもしれません。
夏場を過ぎると、窮地に陥る企業が増える!
同時にこの時期は、企業側にとっても大きな転換点となるタイミングでもあります。
まず資金繰りの面では、コロナ対策で準備した資金が底をつく企業も出てくるでしょう。飲食業や宿泊業では、業界全体で見ても半年前後の資金の確保に留まっていますし、中小零細企業では、業種を問わず、半年分程度の資金しか確保できていない企業が数多くあります。全産業平均の「1.8年分」などの統計(財務省、「法人企業統計」)は、潤沢な自己資金と金融機関からの大きな資金調達枠を有する大企業によって引き上げられているに過ぎません。
3月を起点とすれば、8月が、その6か月目です。売上げ回復には程遠い現状を見れば、夏場以降、「ついに資金も尽きた」という企業が出てくることは避けられないでしょう。
自ら事業継続をあきらめる企業も…
ここでの選択肢は二つ。再び金融機関の支援を受け延命を図り再起を目指すか、事業継続をあきらめるかです。
金融機関の支援余力や姿勢に陰りが見える可能性については先ほど触れましたが、企業側にも、自ら事業継続を断念するケースが増えてくることも予想されます。
緊急事態宣言は解除となりましたが、感染再拡大への警戒ムード漂う中での経済活動の再開です。そして、一昨日、昨日と、東京では2日連続で100人超の感染が確認されるなど、恐れていた事態が起こっているのではとの懸念も強まっています。
ワクチンや治療薬がない現状では、「新しい行動様式」という名の“緩やかな自粛継続”も、相当部分、受け入れざるを得ず、個人消費や生産活動が『回復』を実感できるまでになるには、どのぐらいの時間が必要なのかは、まったく見当がつきません。
こうした中で、「自粛要請が解け、仕事ができるようになれば何とかなる」と期待していた事業者の中には、「こんな状況が続くようではやっていけない」と考える人が出てきてもおかしくありません。
実際、先行きに対する不安から、泥沼に陥る前に会社を畳みたいという申し出もあるようです。(根底には、後継者不在の問題もあるものと思われますが…。)
もっとも、「新しい行動様式」を真に受け、愚直に実行しようとすれば、観光、レジャー、エンターテイメント、飲食などは、今後、ビジネスとして成り立つのかさえ危ぶまれます。
これらの業界において、“密集を避ける”ためには、売上げに直結する「客数」を減らすしかありません。学者さん方は「それでも事業を継続できるような工夫」などと簡単に言いますが、「売上げが〇割減になっても大丈夫な工夫」など、おいそれとできるはずがありません。IT活用を含めた業務の効率化は、これまでも常に取り組んできた課題であり、突如、画期的な手段が見出せるとも思えません。
こう言ってしまうと身も蓋もないのかもしれませんが…、そんな無理難題に取り組むより、感染症の専門家の方々に「密状態にあっても感染リスクの低い行動様式」を考えてもらうほうが、まだ現実的ではないかとさえ思ってしまいます。
これからが「コロナショック」回避の“正念場”
ともあれ、貸す側、借りる側、双方の事情を考えると、今年の倒産件数は7年ぶりに1万件を超える(帝国データバンク)との予測に、大袈裟感はありません。
経済面からは、本当の「コロナショック」は、これからかもしれません。
苦しい台所事情は理解しつつも、今こそ、金融機関の真価が問われる時です。
もちろん、金融機関の庇護、犠牲の上にしか生きられない“ゾンビ企業”を生み出すことなど、誰も望んでいません。金融機関には、感染症に立ち向かう医療関係者に負けない使命感をもって、顧客企業との早期、かつ綿密(=この“密”は必要な密です!)なコミュニケーションを図り、真の生き残り果たせる企業を増やすため、お金に留まらない再生への道筋を共に考える支援を期待したいものです。
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