昨今、コロナ禍による収入の減少や将来への不安などから、生命保険を見直そうと考えている人も多いようです。しかし、目先の保険料負担の回避を目論む安易な解約は、大きな損失になる可能性がありますので、是非、もう一度冷静に考えてみましょう。
まず、何といっても、当該保険の解約により、万一の際の保障がなくなることに本当に問題がないのかということです。
「先のことよりも今が大事」という気持ちは十分に理解しますが、人の死だけは絶対に避けることができません。今、保険を解約して得ようとしているお金は、自分の死後、家族が路頭に迷うかもしれないというリスクを負ってでも手に入れなければならないお金なのかを、今一度、考えてみましょう。
解約の前に「契約者貸付」の検討を!
当座のお金が必要なだけなら、「契約者貸付」制度を利用するという手もあります。
あまり知られていない制度ですが、貯蓄性のある生命保険の場合、原則、解約返戻金の範囲内で、保険会社から、一時的にお金を借りることができるのです。
生命保険をいったん解約してしまうと、再契約の際には、契約時点の年齢に応じた保険料が適用されますので、以前と同様の保険に加入した場合、保険料は確実に高くなります。この点、契約者貸付けの場合、保険契約自体は継続していますので保険料に変更はありません。
もちろん、貸付けを受ける以上、利息の支払いは必要になりますが、一時的な借り入れであれば、再加入時の保険料の増加額に比べ安く済むことも十分に考えられます。
コロナ特例として、一定期間、無利息で契約者貸付けを行っている保険会社もありますので、その利用も検討しましょう。
生命保険の見直し自体は必要なこと
もっとも、生命保険の見直し自体は必要なことであり、保険の解約がいけないということではありません。
生命保険は、通常、向こう何十年という期間を対象にしていますので、家族構成やライフスタイルなどの変化、あるいは今般の「新しい生活様式」などのように社会的な変化によって備えるべきリスクやその必要保障額が、加入当時の想定とは異なるものになることは、ある意味「あたりまえ」です。
思った以上に収入が増加した、貯蓄が進んだ、子供が想定とは異なる進路を歩みだした、妻が働き始めたなどで、「保障がいらなくなった」という場合もあれば、その逆の事態もあるかもしれません。
こうした“ズレ”の修正のため、つまりは不要になった保障の削減、新たに生じたリスクに対する保障を検討し、過不足のない適切な保障と保険料にするために、生命保険は定期的に見直す必要があるということも覚えておきましょう。
生命保険見直しのポイント
生命保険の見直しは、FP相談においても問い合わせの多いテーマですが、その多くは、目先の保険料の引き下げを目的にした相談です。しかし、一昔前の生命保険には、もっと大きなリスクが内在しており、最悪の場合、いざというときに役に立たない保険であることも考えられます。
生命保険の見直しにおける主要着眼点を以下に記していますので、今、保険料が負担になっているわけではない人も含め、保障内容が自分、ならびに家族にとって適切なものになっているのかという視点で、是非、確認してみてください。
繰り返しますが、保険料が安くても、いざというときに役立たない保険は無駄ですし、同時にこれは、自身の人生におけるリスクに対する備えができていないことを意味します。
“元気な今”は、気にならないかもしれませんが、リスクが顕在化するのは年をとり弱ってからのことで、その時になって保険が不適切であったことに気付いても手遅れなのです。
《必要保障額》
再三述べてきたとおり、自分と家族のための備えとしての“必要保障額”に対する充足度をタイミング別(時系列)に確認しておきましょう。
ライフプランとの整合性を意識することなく、他人に勧められるままに加入した生命保険の場合、受け取れる保険金額が不十分で“万一の備え”の役を果たしていないことも考えられます。逆に、必要以上の保険金が受け取れる設計になっているために保険料が高く、日々の生活を圧迫している可能性もあります。
要するに、保障は大きすぎても小さすぎても、自分や家族を苦しめることになるのです。
《終身保障金額》
定期保険や特約により保障額が大きく見えているかもしれませんが、終身部分は1~3百万円程度に設定されていることが少なくありません(契約時にメディカルチェックを受けていない場合、終身保証金額は5百万円には達していないと心得ましょう)。
平均余命程度まで無事に生きれば、それほど大きな保障は必要ありませんので、わかったうえでそうしているのなら構いませんが、長年支払っている保険料は、実はその大半が掛け捨て保険であるのかもしれません。
《保険料の改定》
定期保険との組み合わせにより一定の保険金額を確保している場合、目先の保険料を抑えるために定期保険の期間を短く設定し、満期後に、その定期保険が自動更新されるよう設計されている商品も少なくありません。この場合、当該定期保険の保険料は、更新時点の年齢に応じた保険料が適用されますので、それまでに比べて、保険料が跳ね上がることになります。
理屈は異なりますが、現象的には、かつて社会問題にもなった住宅金融公庫の『ゆとり返済』(現在は販売中止になりました)と同じようなことが起こるわけです。これと同様「負担感の大きな保険料」になるようなことがないのかは、確認しておいたほうが良いでしょう。
《払込み終了時の年齢》
上記に加え、年間保険料を抑えるべく払い込み期間を長く設定しているため、保険料の払い込み完了時の年齢が65歳を大きく超えている例も少なくありませんが、退職後、保険料の支払いに心配はないのでしょうか。
いよいよ保険がクローズアップされてくる高齢期を迎え、いまさら失効させるわけにはいきませんので、どうやって保険料を払うのか、あるいは前倒しで保険料の払い込みを済ませてしまうことはできないかを考えておくことも必要です。
《払込み終了時の特約維持費用》
一般に、医療特約など“特約の効力”は、払込み期間中に限定されており、保険料の払込期間終了後は失効します。これを80歳程度まで有効にしようとすると、払込み終了時に、特約条項の適用延長のための保険料(1~2百万円程度が多い)が必要となることがあります。
およそ40年もコツコツと保険料を払い続けてきたのに、年老いて、これから病院のお世話になる機会も増えてくるかもというときに医療特約が失効すると言われ、それを継続しようと思ったら百万円水準の追加保険料の支払いが必要となるなど、寝耳に水という人も少なくないのではないでしょうか。
さいごに
前回述べたとおり、生命保険は、総支払保険料が1千万円に及ぶこともある“高価な買い物”ですが、万一の場合、貯蓄では望めないお金を手に入れることができる手段であることも事実です。ライフプランを見据え、どこで、どのように働いてもらうのかをしっかり考えれば、“安心”を得るうえでも、高いパフォーマンスを発揮させることができます。
ただし、保険の基本は、今後、自身、ならびに家族に降りかかる災難(リスク)に対する経済的補填であり、これがプランニングの基本です。したがって、保険の選択、加入にあたっては、どんなリスクに対する保障が必要なのかをしっかりと見据えることが、唯一絶対の条件であることだけは、しっかりとおさえておきましょう。
特に生命保険においては、年金機能を併せ持つ商品や、満期返戻金のある保険など貯蓄機能を有した商品も数多く存在し、資産運用の一環として捉えられることも少なくないようです。しかし、“保障”という機能を有しつつ、運用商品として高いパフォーマンスを発揮するなどという一挙両得の都合の良い商品は、世の中に存在しません。
資産運用が目的であるならば、それに特化した金融商品を選択するべきであり、生命保険は、あくまでも『リスクに対する備え』を中心とした選択を行うことが肝要です。
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