生命保険は、「マイホームに次ぐ、人生で2番目に高い買い物」と言われています。
月々の保険料を累計すると生涯支払金額が1千万円を超えることも珍しくない、大変“高価な買い物”であるにもかかわらず、実際には、その内容もよくわからずに加入しているケースが少なくありません。
生命保険の役割は、長生きのリスク(=生前に貯蓄が底をつくこと)と、自分に万一のことがあった時に家族の経済的リスクに備えることですから、その適切な加入にあたっては、どのタイミングで、どの程度の保障が必要なのかを理解することからはじめなければなりません。
特に、家族に対する備えの側面では、家族構成等とそのタイミングによっては、普通のサラリーマンであっても、必要保障額が1億円に及ぶことも珍しいことではありません。
あまりの金額の大きさに“冗談”と受け取る人も少なくありませんが、必要保障額とは、簡単に言えば、今後、家族が生き抜くために“不足しているお金”です。サラリーマンの生涯賃金が3億円とも言われていることを思えば、「まだ1億円以上のお金が必要」なタイミングがあることに不思議はありませんし、その状況で貯蓄が少なければ、当然、必要保障額は大きくなります。
逆に、子供も独立し、今後大きなお金が必要になることがない人や、保険になど頼らなくとも遺族が今後の生活に困る心配のない十分な金融資産を有している人の場合、必要保障額が“ゼロ”になることもあります。また、おひとり様に代表されるように、自分の死亡によって稼ぎがなくなった時に生活に困るであろう遺族がいない人には、基本的に生命保険は必要ありません。あるいは共働き世帯で、配偶者の稼ぎだけでも家族の生活が成り立つことが予想される場合も同様です。
このように、必要保障額は、社会的地位や収入の多寡とは関係なく、人それぞれの家族構成やライフスタイル次第で、大きくなることもゼロになることもあります。生命保険とはそういうものだということを理解し、「我が家では?」を考えなければならないのです。
死亡保障の必要性
世界的に見ても、日本は、アメリカに次ぐ生命保険大国です。しかし日本の生命保険加入率の高さは、「多くの国民がリスクを的確に認識し、それに備えているから」とは言い難い側面があります。
一昔前までの日本では、「社会人になったら生命保険に入るのは当たり前」という風潮があり、何のために、どの程度の生命保険に入る必要があるのかは、あまり考えられていなかったのが実際のところでしょう。そしてこの結果、ライフプランとの整合性に欠ける不必要な保険に加入し、高額な保険料を払っているケースも見られます。ただ、過剰保険は無駄に違いなく、これに伴う保険料が無駄な支出であることに間違いはありませんが、それでも無理なく払えているのであれば“害”は小さいと言えます。万一の際に、必要以上の保険金が手に入ったために遺族の生活が窮地に陥ることはありませんから…。
心配なのは、この逆のケースです。
近年のわが国における生命保険の加入率は低下傾向にあります。もちろん、いま述べたように、生命保険は万人が加入すべきものではありませんので、加入率の低下が、即、“悪”ではありません。しかし現実には、ファイナンシャルプラン的には保険をかけておくことが望まれるにもかかわらず、保険料の負担をきらい、大きなリスクを先送りしているケースも少なくありません。
はっきり言えば、毎月の保険料に負担感を覚えるような家計状況にある人こそ、保険が必要な人であり、その意味では“加入すべき人”に限って、入っていないのです。
生命保険は、日常生活の中でその価値を感じられるものではありません。また、“死”に対して切迫したリスク認識がないことからその必要性が過小評価され、後回しにされることも多いようですが、人の死は必ず訪れます。そして誰もが、心残りなく人生を全うすることをイメージしているのでしょうが、不幸にしてこうした最期を迎えられないことがあるのも現実です。
死に怯えながら生きる必要はありませんが、万一のことが起こった時の、遺された家族への影響をしっかりと認識しておくことは大切なことです。
死亡保障の保障内容の決め方
保険の加入にあたっては、自分が備えたいと考えているリスクに合わせた保障内容にしなければなりません。保険の保障内容とは、保険金額(万一の時に受け取れる金額)や加入期間(保険期間)のことで、死亡保障の必要金額は、以下のように算出します。
つまり死亡保障の金額は、基本的には、ライフプランに基づくファイナンシャルプランから導かれることになりますが、ライフプランは、当然、自分自身も元気で暮らしていることを前提としていますので、死亡保障を考えるうえでは、例えば以下の項目のように修正、またはその検討が必要なものがあります。
l 支出見込み額(通常、必要な時期はそのままで、金額のみの修正になります。)
遺族の基本生活費 |
自分がいなくなりますので、老後資金として想定していた月間生活費が減少します(2~3割減で考えるのが一般的です)。 |
社会保険料 |
会社員世帯の場合、これまで給与天引きだった年金、健康保険料が自主納付に変わります(厚生年金、健保組合ではなくなるため、事業者負担もなくなります)。 家族構成などによりますが、都合月5万円以上の侮れない金額になることも多いようです。 |
子供の教育資金 |
就学可能な遺産があれば、当初目標通りの進路選択も可能ですが、世帯主の死亡により学費のかからない学校への進路変更(私立の想定を公立に変更するなど)の検討も考えられます。 |
住居費 (住宅ローン) |
住宅ローンの残債は団信で完済されますので住宅ローンの返済の必要はなくなりますが、維持費は引き続き必要です。 |
l 収入見込み額
遺族年金 |
受給年金の種類、配偶者や子供の年齢により受給額が変わります。 |
死亡退職金等 |
会社員の場合、通常の退職金に加え、上乗せがあることがあります。また、弔慰金が支給されることもあります。 |
遺族配偶者の収入 |
配偶者の死亡により、これまで通りの働き方ではなくなることも考えられます。金額の算定まではともかく、どのような選択肢があるのかは考えておきましょう。 |
結婚や子供の誕生、あるいは独立等、家族構成が変わった時が、必要保障額が大きく変化するときです。
働き手である男性を例にすると、結婚により「家族」ができるため、ベースとなる必要保障額が生じます。そして子供の誕生とともに、養育、教育資金の必要性が生じますので、必要保障額は一気に膨らみます。そこから子供の成長やライフイベントの通過とともに必要保障額は徐々に減少し、子供の独立とともに大きく減少するというのが基本パターンです。
保険加入の基本例
一般論としては、第一段階として、終身保険でベースの保障を作ります。ここでの保険金額は、平均余命前後までしっかりと生きることを前提とし、自分の死後に必要となるお金の中心となる「妻一人が遺された期間の生活費の不足額」を見据えて5百万円程度を目安とすればよいでしょう(妻自身の年金等の勘案後)。終身保険は確実に受け取ることのできる保険ですから、こうすることで「妻一人が遺された期間の生活費」を貯蓄で残す必要はなくなることになります。つまり、貯蓄代わりにもなる一石二鳥の保険になるわけです。
この保険金額を大きくすることができれば、遺族の安心度は高まりますが、終身保険の保険料は高めですから、保険料負担は重くなります。生前の生活費にどの程度の余裕があるのかにもよりますが、1千万円を超える準備が必要となる人は多くはないはずです。
そして第二段階として、子供の教育資金がかかる期間など、時限的に必要保障額が膨らむ期間に合わせて定期保険に加入しておくとよいでしょう。子供の教育資金として必要な金額は、大学までの進学資金を確保することを前提に考えれば、オール国公立で800万円程度、オール私立なら2,300万円程度です。そこで、例えば子供が生まれる前後に、この費用見合いで期間20年程度の定期保険に加入すれば、この定期保険が期日を迎えるころには子供は独立しているか、独立間近な年齢に達しているはずです。したがって、「養育費」はもう必要ありませんから、継続する必要がないわけです。
生命保険は、一人一契約にしなければならないわけではありませんので、保障という観点からは、先述の終身保険に加え、子供が生まれるたびにそれぞれ用の定期保険に追加加入することのほうが理にはかなっています。一方で、年齢を重ねると保険料は上がってしまいますし、複数の生命保険に加入するのは管理が面倒になる可能性もあります。望ましくは、子供は何人欲しい、大学まで進ませたいなどのライフプランを立てたうえで合理的な保険加入を検討したいところです。
ただ、このすべてを保険でカバーしようとすれば、相当大きな定期保険が必要となり、終身保険よりは割安といえども、その保険料負担も重くなります。特に、定期保険の保険料は掛け捨てで、後には何も残りませんから、ここで頑張りすぎると住宅資金や老後資金の準備に支障があるかもしれません。
万一の備えである保険料によって家計が苦しくなるようでは本末転倒です。無理のない範囲でどこまで備えることができるのかをしっかりと考えましょう。
そもそも子供がどのように育ち、何を望むようになるのかもわからない中、必要金額の見積もりなどざっくりとしかできませんし、子供の成長とともに必要保障額は減少していくことも踏まえ、教育費を中心とする子供関係費として、1人あたり1千万円程度の保障額を確保できれば、かなり安心できます。
これを超えた部分について、なお保険での保障を考えるのであれば、老後資金の形成も見据え、保険期間を無事に過ごせた場合には貯蓄として利用できる年金保険や養老保険等の貯蓄機能を備えた保険で補完できないかを検討することが得策です。
次回は、生命保険見直しの際の具体的なポイントについてお話します。
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