急激な円安が止まりません。
3月上旬は115円を挟んで推移していたドル円相場は、中旬以降、一気に円安の流れを加速し、4月20日、ついに130円台目前の水準に達しました。
巷では、この原因は日米の金利差の拡大にあるとされています。
現在、米国ではエネルギー価格の上昇に引きずられて物価が高騰しています。FRB(米連邦準備制度理事会、日本の日銀に相当)は、これを抑え込むために金融の引き締めにかかり、政策金利を0.25%引き上げました。
これによって、金利の低い円を売り、高いドルを買うというお金の流れが加速しているわけです。
しかし、市場において、米国の利上げは「サプライズ」ではありません。
今後のウクライナ情勢の行方次第では方向転換の可能性も残されてはいるものの、米国では、今年中に7回の利上げの可能性も示されており、年後半には2%水準にまで達するとも予想されています。3月の利上げについても、「0.25%では効果が薄い。一気に0.5%の引き上げもある」との声が主流であったこともあるのです(それこそ、ロシアによるウクライナ侵攻がなければ、0.5%の引き上げが実施された可能性は十分にありました)。
一方の日銀は、ご存じのとおり、現在の金融緩和策を継続する方針を表明し続けています。
つまり、日米の金利差の拡大は、もう今年の1月、2月の段階で誰も疑う者のないレベルで予想されており、この時点での関心事はそのスピード感、特に「初回を0.25%にとどめてくるか、一気に0.5%でくるか」だったのです。
にもかかわらず、FRB会合の1週間ほど前から円安がはじまり、0.25%という予想通りの利上げに留まったにもかかわらず、“あく抜け感”を見せることなく、円安が加速している現在の状況は、「日米の金利差拡大」だけをその理由とするには、かなり無理があると考えざるを得ません。
政策的対応ができないことは見透かされている?
これまで「円安は日本経済にとってプラス」(これがやや旧来的な考え方である点については、今は目をつぶりましょう)との姿勢を貫いてきた日銀・黒田総裁も、さすがにわずかひと月で10%を超える下落を見せた急速な円安に対して苦言を呈しはじめましたが、現在の日本の経済・金融状況を見れば、日銀が金融引き締めに転ずることはできず、“口先介入”以上のことができないことは、完全に見透かされています。
一方、今般の急激な円安には、政府も懸念を強めており、先般、鈴木財務大臣が、現在の円安を「悪い円安」と述べました。財務大臣が為替相場に対し、ここまではっきりと懸念を表明するのは異例であり、こうした発言を受け、一時、円安の流れは止まりました。
政府による強い懸念表明は、為替介入を連想させることが、市場関係者の警戒心を誘ったわけです。しかし、この効果が長続きすることはありませんでした。
冷静に考えれば、為替介入の可能性は、現時点では大きいとは言えません。
一部には、「為替相場が130円台まで下落すれば政府は介入を考えるだろう」との見方もありますが、仮に介入があっても、小さな「単独介入」にしかならないでしょう。
なぜなら、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、エネルギーを中心とする資源価格の高騰に加えて穀物類を中心とする食料品価格の高止まりが続いており、各国とも物価上昇に頭を抱える状況にあります。この状況下で、自国通貨を弱めることにつながる円安是正への介入に協調してくれる国があるとは思えません。特に米国については、利上げまで行ってインフレを抑え込もうとしている中で、ドル高是正などもってのほかでしょう。
こうした背景の中では、実は「単独介入」にさえ、「本当にできるのか?」という懸念が生じます。
為替介入というのは、いわば政治による経済介入、もっときつい言葉を使えば操作です。
かつて、中国政府が、自国の競争力を高めるために意図的な元安誘導を行っているとして、米国が強く非難していたことがありますが、為替相場にはそうした力があるため、介入を行うにあたっては、諸外国の了承を得る、少なくとも仁義を切ることがマナーとされています。自国の都合だけで、相手国経済に迷惑をかける介入を行うことは、世界経済の秩序を守るうえで許されないことなのです。
翻って現在、米国や欧米各国は、日本の為替介入に対してどう反応するのか…。
「日本の状況は理解するが、今はわが国にもそれを受け止めるだけの余裕はない。自重してもらえないだろうか」といった具合に、日本の「単独介入」に対しても難色を示す可能性は高いでしょう。
そもそも「単独介入」では「協調介入」ほどの効果が期待できず、持続性もないといわれていますが、こうした状況を考えれば、仮に強引に踏み切ることがあっても、その実施規模は、急激な円安には懸念を表明するという意思表示に足る程度の介入にとどめるしかないでしょう。
本質は「日本売り!」
「日米の金利差の拡大」が円安の理由である点を否定はしませんが、それは表面的なものです。その裏には、先述のとおり、「これに対して日本が有効な手立てが打てない」ことが見透かされていることがあるわけです。
一方、もし日本が予想に反して利上げを行えば、金利差は縮小しますが、1,000兆円を超える国債を発行する政府の利払い負担が増加し、財政不安が再燃することになります。
少子高齢化が進み人口も減少傾向にあるうえに、首都圏一極集中により国内の経済圏が次々に消滅していくことが予想されているなど、国家経済の大黒柱である内需にネガティブ予測しかない日本に、この債務を返済していくだけの明るい将来像は描けません。資源国でもない日本の外需依存経済は、「企業力」に支えられた経済力であり「国力」ではありませんから、国家経済への期待に基づく「円の信任」にはつながりません。
為替取引は、株取引などと同様、二手先、三手先を見据えて取引されるものです。「日米金利差の拡大」は、デイ・トレード要素を排除できないことは事実としても、いまさら取引材料にはできない織り込み済みの事象です。…ここに「サプライズ」があるとすれば、当面のスピード感です(急速な利上げは、インフレ抑制を超え、米経済の重しとなる可能性もあるからです)。
この点はともかく、米国の利上げを受けた今後の動きを考えた場合、政策的な手詰まり感があり、その背景にあるファンダメンタルにも光明が見えない「円」すなわち「日本」に、買い材料が見当たらない…これが「円安の正体」であり、今般の米国の利上げは、「日本に見切りをつけるタイミング」を見計らっていた人たちに、きっかけを与えたに過ぎないのです。
今般の利上げにより、ようやく米国の実質金利はプラスに転じましたが、米国における金融引き締めは、これからが本番です。実質マイナス金利を継続する日本との金利差は0.5%ほどですが、今後、この金利差はさらに拡大することが確実視されています。
マイナス金利、ゼロ金利政策の解除を可能とする力強い経済の復活に向けて取り組むべきは、金融政策ではなく、日本経済の構造改革であるということに、一刻も早く気づき、動き出すことに期待したいと思います。
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