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今できるささやかな「地域支援」

資産運用手段としての「年金の実力」

厚生労働省は、629日、令和元年度の「国民年金の加入・保険料納付状況」を公表しました。

これによると、令和元年度分保険料の納付率は、前年度比1.1ポイント増の69.3%と8年連続で上昇しました。

また、保険料の未納分は、納付期限後2年以内なら遡っての納付(追納)ができますが、最終納付期限を迎えた平成29年度分保険料の納付率は、現年度66.3%から10ポイント上昇し76.3%となりました。こちらも、平成28年度分の最終納付率を1.7ポイント上回り、過去最高となっています。

保険料未納者への督促の強化が奏功した格好です。

 

一方、年齢階級別の納付率(下図参照)を見ると、どの年度を見ても5559歳が最も高く、2529歳が最低になっています。特に、この階級における2224歳の納付率からの激減傾向が顕著であり、納付を停止する若者が相当数いることが伺えます。


『国民皆年金』を原則とする日本においては、現在の水準も不十分と捉えるべきところ、若年層に未納者が多いという事実は、見過ごせない問題と言えるでしょう。

 

若年層の年金に対する意識については、先の話過ぎて実感がわかないということもあるでしょうが、雑誌やWebでの年金批判記事の影響もあると考えられます。

今回は、この中にみられる「年金は割に合わない」という点を検証してみましょう。

 

なお、年金制度の改定リスクについては否定できませんが、「年金制度の崩壊により受取れない」は、現実的ではありません。

話の拡散を避けるため詳説しませんが、年金は、国が支払いを保証している、いわば国家債務です。MMT理論を支持するわけではありませんが、円建て国債の発行によって国が破綻することが考えられないのと同様、国が年金(当然「円」です)の支払いができなくなることは考え難いです。

 

年金の“利回り”ってどのくらい?

年金保険料、ならびに年金額は毎年改定されるため、納付・受取時期の違いにより納付保険料総額や受取年金総額は微妙に異なりますが、ここではいずれも令和2年度の保険料、ならびに年金額を基準に計算します。

 

まず、「支払った金額さえ取り戻せない」との点について考えると、総保険料相当の金額を受給するために必要な期間は、102か月となります。

納付保険料総額:7,939,200円=16,540円×12か月×40

納付保険料額相当を受取るための年金受給期間:10.16年≒7,939,200円÷781,700

 

65歳から受給を開始した場合、752か月で“全額回収”できる計算になりますが、これは、男女とも平均寿命(男性81歳、女性87歳)を下回ります。

 

次に、時間の概念を取り込みます。

年金のモデルプランに則し、毎月16,540円を40年間(20~59歳)納付し、5年(6064歳)の据え置き期間を経て、65歳から平均寿命まで2カ月ごとに781,200/6(≒130,283円)を受け取るものとすると、以下のとおりになります。

 

男性  受給総額 12,507,200円(保険料総額の1.58

61年間(40+5+16年)の通算利回り:実質1.35%(税前1.69%相当)

女性  受給総額 17,197,400円(保険料総額の2.17

67年間(40+5+22年)の通算利回り:実質2.10%(税前2.63%相当)

 

目を見張るほどの利回りとは言えませんが、20年に及ぶゼロ金利時代を含む60余年の「安全運用」(確定給付年金ですから安全資産といってよいでしょう)の平均利回りとしては、十分な水準ではないでしょうか。

 

マニアックな計算を深めても仕方ありませんが、実際の年金保険料に基づく利回りはもっと高くなります。

上記計算では40年間、保険料は16,540円で固定としていますが、例えば昭和564月(月間保険料4,500円)から今年度末までの40年間、その時々の保険料を遅滞なく納め、今年度価額の年金を平均寿命まで受け取るとして上記同様の計算をすると、その利回りは、男性が2.51%(税前3.15%相当)、女性は3.22%(同4.05%)です。

安全運用でこれだけの利回り…「出せるものならやってみろ」と言える水準ですね。

 

年金を放棄して…、老後資金はどうするの?

ところで、『平成29年国民年金被保険者実態調査結果の概要』(厚生労働省、3年毎に調査実施)によれば、第1号被保険者(≒サラリーマンとその妻(第3号該当者)を除く2060歳までの人)のうち、保険料滞納者は19.4%にも及んでいます。

この中には、就労・所得事情から保険料の支払いが困難なケースばかりではなく、自分の意思で支払わないことを選択している人も少なからずいるようです。

 

保険料を納付しない理由として「納める保険料に比べて、十分な年金が受け取れないと思う」の声も根強いですが、それは上記のような実情を知ったうえでの発言なのでしょうか。

国民年金のみの場合、満額でも年額781,700円ですから、「年金だけで暮らしていけるか」と問われれば「No」でしょう。しかし、「納める保険料に比べて…」であれば、決して悪い水準ではないと思います。

   負担を増やさずに年金を増額できれば良いですが、そんな都合のいい話があるはずもありません。次善策として、年金の受取額を増やす「繰下げ受給」という手段もありますので、本ブログ内『年金の「繰上げ受給」「繰下げ受給」について考える』も参考にしてください。

 

年金財政の悪化を受けた支給水準の引き下げなど年金制度が“改悪”されてきたのは事実で、制度の将来を不安視する気持ちは十分理解しますが、年金保険料を納めない人たちには、これに代わる老後資金のアテがあるのでしょうか。

年金保険料を払わないということは、年金受給権を放棄していることです。

その金額は、65歳以降20年間で15百万円、人生100年時代を見据えれば25百万円を超えます。

そして、忘れてならないのは、あなた自身が生きていくために必要なお金(老後資金)は、年金受取りを放棄しても免除されることはないということです。

自分の意思でその受取りを放棄したからには、自己責任でこれに相当するお金を準備しなければなりませんが、この点はしっかりと理解できているでしょうか。

自分の老後を守る手段については、無責任な「批判家」の声に踊らされることのない、冷静な判断と対応が必要だと思います。

 

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