「安い時に買って高い時に売る」。
端的に言ってしまえば、投資で儲けるために為すべきことはこれだけです。
ただ、残念ながら、相場の天井や底は誰にもわかりません。
値上がりしていると「今は高いから」、値下がりしていると「もっと下がるかも」…このように、“安い時に買う”に固執し過ぎると、いつまでたっても“買い時”は訪れません。
価格が変動する金融商品を一時に購入すると、高値掴みをしてしまう可能性がありますので、これを恐れて、「思い切って買う」という最初の一歩がなかなか踏み出せないことは、投資をはじめようとする人には良くある話です。
そんな時に有効なのが、『ドル・コスト平均法』を用いて購入するという方法です。
ドル・コスト平均法が推奨される、魅力的な「特徴」
ドル・コスト平均法とは、日々、価格が変わる金融商品を定期的、かつ継続的に一定金額ずつ購入する手法です。なお、ドル・コスト平均法は、投資手法の名前であり、金融商品ではありません。この手法を用いた商品としては、iDeCoなどの「積立投資」がその代表です。
購入金額を一定にすることで価格が高い時には少なく、安い時には多く購入することになるため、一定量ずつ(株数や口数を一定にする)購入するよりも平均取得単価を抑えることができます。(下図参照)
投資において、取得価格が下がるのは無条件に歓迎すべきことで、この特徴が、ドル・コスト平均法が「有益な手法」として推奨される理由の一つでもあります。
加えて、これを長期間にわたって続けると、平均取得単価は平準化(高値でも安値でもない、中間的な水準)されていきます。
どのタイミングではじめても平均取得単価に大きな差が生じなくなってくるわけですから、「今、はじめるか否か」を悩む必要がなくなるわけです。有体に言えば、どうせ最後は大差のない取得単価になるのですから、今の価格が高いか安いかに関係なく、はじめてしまえばよいわけです。
ドル・コスト平均法は、個人の資産形成アプローチにも馴染みやすい
上図からもわかるように、一定量ずつ購入する方法では、購入時点の単価次第で購入価格が変わってしまいます。「毎回〇株(口)」と決めていると、実際の購入価格は1万円の時もあれば、1万2千円になることもあるかもしれません。一般個人投資家にとって、毎月の投資額が1万円なのか1万2千円なのかは大きな違いですし、そもそも毎月の投資額が相場次第で変動する積立は、正直、続け難いです。その点、ドル・コスト平均法による投資は、毎月の投資額が一定ですから、家計にも組み込みやすくなります。
また、一般個人投資家の場合、投資に振り向けるべきまとまった資金を持っていないことも考えられます。これから資産形成をはじめようと考えている人の場合、保有資産ゼロがスタート地点になるわけです。あるいは、それなりの蓄えがあっても、初めての投資でいきなり100万円、200万円をつぎ込むのは敷居が高過ぎます。
毎月の収入から少しずつを投資に充てる積立投資は、こうした個人投資家の懐事情や心情に照らしても、無理なくはじめられる現実的な投資方法でもあるのです。
ドル・コスト平均法のデメリット
一方で、ドル・コスト平均法のデメリットについても触れておきましょう。
この手法の選択における最大のデメリットは、機会損失の発生です。
冒頭でも記したとおり、「安値で買って、高値で売る」が、投資の理想です。もし今がこの「安値」であるにもかかわらず、ドル・コスト平均法による定額定期購入に留めたのだとすれば、それは「安値で一括購入できるチャンスを放棄した」ことにほかなりません。
もちろん、それが「安値」であったのか否かは結果論ですが、そう信じて一括購入することで大きく儲けることができる可能性がある一方で、一段安に見舞われ大きく損をする可能性もあります。ドル・コスト平均法の選択者は、後者になることを恐れ、「手堅くいく」ことを選んだわけですから、前者になることもありません。
「安い(と思われる)時にも一括購入はしない」というこの選択は、結果として、機会損失を発生させてしまう可能性がある。これが、ドル・コスト平均法の最大のデメリットです。
ドル・コスト平均法への批判に関する考察
この他、一部の識者からは、購入回数が増えることで手数料が嵩んで収益性を低下させることや、特定の金融商品への集中投資を行うことになりリスクが増大すること、短期的なキャピタルゲイン(売買益の獲得)には向かないことなどが、デメリットとして指摘されることもあります。
ドル・コスト平均法の理解にも役立ちますので、それぞれについて解説してみましょう。
① 手数料負担の増加による収益性の低下
つみたてNISAやiDeCoを筆頭に、ドル・コスト平均法を用いた積立投資商品の場合、定期購入の度に購入手数料がかかることは、通常、ありません(ただし、例えばiDeCoでは、加入時手数料や、口座管理料などの手数料が必要です)。
こうした既定の商品以外で、例えば自分で定額定期購入を行うことにした場合には、手数料負担が重荷になる可能性はありますが、一般個人投資家が毎月拠出できる金額で、「自分で定額定期購入を行う」ことは難しいでしょう。もっとも、従量制の手数料体系や、昨今の手数料水準からは、小額購入が著しく不利になるとは限りません(投信では購入金額の〇%という手数料体系が主流で小額購入が割高になることはありませんし、最近では小額取引の手数料が無料という証券会社もあります)。
時代が変わったと言うと大袈裟な表現ですが、現在の商品性や手数料水準から考えて、合理的な選択を行う限り、本件のような懸念は無用と言えるでしょう。
② 特定金融商品への集中投資に伴うリスクの増大
ドル・コスト平均法では、ひとつの金融商品を買い続けるわけですから、当然、集中リスクはあります。
ドル・コスト平均法は、取得単価の平準化、すなわち高値掴みによる大きな損失を回避することを目的とする手法であり、ポートフォリオ・リスクや投資対象の信用リスクまでを抑制するものではありません。ドル・コスト平均法が「あらゆるリスクを低減する魔法の手法」ではないということはしっかりと理解しておきましょう。
ただ、積立投資では、通常、その購入対象は投資信託です(※)。したがって、購入対象商品自体にすでに分散効果が内包されているといえます。
※
商品によっては、保険や預金の選択が可能なものもありますが、個別銘柄を購入対象とするものはないといってよいでしょう。「従業員持ち株会」はその例外と言えますが、これは通常の投資と同列に語ることはできません。
分散度合いは、それぞれの投資信託の投資対象次第ですが、例えばTOPIXファンドを投資対象とすれば、購入している金融商品自体は一つですが、その投信は全東証一部上場企業を対象に分散投資していますので、株式限定とはいえ、分散度合いは高いと言えます。
「分散を踏まえた購入ファンド選び」に自信のない人は、例えば『つみたてNISA』の投資対象にもなっている投信を選ぶという方法もあります。これは利益を約束するものではありませんが、長期、分散投資の対象としてふさわしいとの評価を受けた投信だからです。
③ 短期的なキャピタルゲイン(売却益の獲得)には向かない
これは、ドル・コスト平均法についての著しい誤解が原因の指摘だと言えます。
ドル・コスト平均法は、時間分散効果を利用して取得単価を平準化することが最大の狙いです。これとともに平均取得単価の低減が図れることは間違いありませんが、少量購入であることから一購入あたりの低減効果は実に微々たるものです。相場商品を相手にする以上“スクランブル”の可能性を否定はできませんが、ドル・コスト平均法は、1年や2年のスパンでその効果を得られるものではありません。
そもそも、ドル・コスト平均法は、リスクを抑えるための手法です。リスクとリターンは表裏一体の関係にあり、投資の世界でリスクを抑えるということは、ある程度の収益を放棄するのと同義です。
大きく儲けたいのなら、取得単価の平準化など考えず、ここが底値と信じたところで一括購入すべきなのです。そこにレバレッジをかけ、さらに大量購入することが検討されることはあっても、小額購入となるドル・コスト平均法を採用することは考えられません。
要すれば、短期的なキャピタルゲインを狙う人が、ドル・コスト平均法で金融商品を購入すること自体が間違い、ラグビーの上達を目指す人が、バットを買ってきて「役に立たない」と文句を言っているようなものです。
「長期・少額・分散」は“安全な投資”には結びつくが、『基本』ではない
ドル・コスト平均法が賢明で有益な手法と評価されるのは、リスクを抑えた手堅い投資手法だからであり、大きく儲けることができるわけでもなければ、投資手法として他の手法より優れているわけでもありません。
2023年から適用されるNISAの改定案を見ると、国には、『つみたてNISA』(=ドル・コスト平均法による投資)を普及させていきたいとの意図があるようです。(改定後は『一般NISA』においても、一部、積立てを行うことが、新たに非課税適用を受ける場合の必須条件となります。)
この改定の背景には、長期的な資産形成を支えることが目的であったNISAが、短期的利益の確保に利用されているとの批判があり、これを受け、長期、少額、分散投資の典型である積立投資を基本にしたかったからだそうです。しかし、NISAが対象にしているのは投資商品です。長期投資では、時々刻々に変動する価格に一喜一憂しないことが基本ですが、これは「値上がりしても売るな」ということではありません。
結果的に短期利益の確保に使われることになったとしても、それが投資というものですから、目くじらを立てる必要はないように思います。
NISA制度構築時の基本イメージの中にはなかったものかもしれませんが、相場商品を対象にしていることも考えれば、莫大な非課税枠があるわけではないNISA内での短期売買も、個人の選択として許容してもよかったのではないかと思います。
目的は投資による資産形成であり、積立はその手段のひとつにすぎません。一歩目を踏み出す勇気がなかなか持てない、あるいは金融リテラシーに自信がない人にとって、比較的安全な運用手法であり、かつ誤解を恐れずに言えば、あまり考える必要のないドル・コスト平均法を使った積立投資は、取り組みやすい投資方法といえます。しかし、個々の資産形成に向けたアプローチの中で、これをポートフォリオに組み込むことの是非は投資家自身が考えるべきことであり、万人が採用すべき手法と決めつけることはできません。
ここまで述べてきた特徴を踏まえ、積立投資(ドル・コスト平均法)が、自分の趣向、投資スタンスに合うのかどうかを考えることが必要です。
ドル・コスト平均法の留意点
繰り返し述べてきたとおり、ドル・コスト平均法は、取得単価の平準化を狙う手法であり、その効果が現れるまでには時間が必要です。
近年ではあてになりませんが、景気循環の周期は7年と言われていますので、少なくともこの間はずっと続けるぐらいのスパンで考えましょう。毎月投資するとすれば、7年でも84回にしかなりませんので、ようやくこの手法の良さが見えてきたころに過ぎないかもしれません。…ドル・コスト平均法は、そのぐらいの超長期スパンで取り組むことが基本の手法なのです。
また、投資期間中の対象銘柄の値動きが右肩上がりになった場合、ドル・コスト平均法の選択は失敗だったということになります。
先ほどの時間軸の話にも関係してきますが、上昇相場の中ではあまりいいパフォーマンスを見せてはくれませんので、この手法を採るのであれば、短いスパンを切り取って成功だ!失敗だ!と考えるのは避けるべきです。
『自分の投資スタンス』に合ったポートフォリオを構築していくためにも、「ドル・コスト平均法」の意味や価値をしっかりと理解し、適切な資産形成に役立てていきましょう!
コメント
コメントを投稿