スキップしてメイン コンテンツに移動

今できるささやかな「地域支援」

黒岩知事のプロ野球観戦から、リーダーの姿勢を考える

昨日、神奈川県の黒岩知事が、「神奈川警戒アラート」の発動日にプロ野球観戦を行っていたことが報じられた。

あらかじめ断っておくと、私は、この件に関して、報道以上の詳細な情報を知らないので、肯定するつもりも批判するつもりもない。

ただ、リーダーの姿勢、あるいは危機管理という視点から、こうした指摘を受けた場合の対処法を考える題材としてとりあげてみたい。事象は違えども、“マネジメント層の言動”が問題視されることは民間企業でもまま発生していることで、対外的事案に限らず、社内で従業員(部下)に対してどのようにふるまう(語る)べきかに通じるものがあるからだ。

 

結論から言うと、「正直であるべし」。

後ろめたいことがないのなら、堂々と自身の考えを述べ、詫びるべきところがあると思うなら、素直に詫びることだ。一番やってはいけないのは、取り繕うことだ。これをやると、表面的には問題を回避できるかもしれないが、完全に信用を失う。

 

今般とりあげたケースでいえば、知事自身も言っているとおり、「神奈川警戒アラート」は外出自粛を求めるものではなく、感染防止対策が実施されている場所に行くことは国や県としても問題なしとしているものだ。賭けマージャンをやっていたわけでも、台風や豪雨のさなかに宴会を行っていたわけでもなく、黒岩知事は、何一つ責められるようなことはしていない。

もちろん、「何もこんな時に」と考える人の気持ちもわかるが、“こんな時でも経済を停滞させてはいけない”というのが、今現在の国、および自治体の方針だ。

したがって、知事は、「こういう状況ですから、どんどん行きましょうとは言えませんが、日常生活を取り戻すための一歩も踏み出していかなければなりません。もちろん、その際には、ご自身でもしっかりと対策いただくとともに、ガイドライン順守でお願いします」とでもコメントしておけばよかったのだ。

もしそこに、そうは言っても軽率だったかなという思いがあるのなら「有観客試合の初日という節目と考えたのですが、警戒アラート発動の初日というタイミングを不適切とお考えになった方もおられたようで、その点はもう少し配慮すべきだったと反省しております」と付け加えておけばよかろう。

「何が悪いんだ!」調になってはいけないが、誠実にその真意を伝えることに努めるべきだった。

ところが、これに対して知事は「どんな風に感染防止対策をしながら試合をするのか、ぜひ観てほしいとのお申し出があり、観戦に出かけた」との取り繕いを行った。

“取り繕った”と断言することに反論があるかもしれないが、そうとしか思えないのは筆者だけではなかろう。

百歩譲って、そのコメントが真実だと言うのならば、その結果を報告していただきたい。具体的に、何か所、何人体制でどのような対策が為されていたのか、知事としてその対策をどう評価しているのか、先方の担当者からどのような説明を受け、どこまで確認したのか、しっかりと報告してもらいたい。

その実態がプライベートであり、きっちりと確認していないのなら、責任ある立場の人間として感染防止対策云々の下りを述べるべきではない。

そもそもその“お誘い”が真実なら、なぜ、県の担当者を同行しなかったのかという疑問が生じる。すると、“お誘い”なんて嘘なんじゃないの?もしかして入場料を払っていないのではないか?公にはできない事情があったからプライベートだったのか?…「痛くもない腹」であろうが、次々に疑問がわいてきてしまうのだが、それもこれも、余計な取り繕いをしたためだ。

ついでに言えば、地位もお金もある人なので、庶民感覚で考えてはいけないのだろうが、個別観覧席で観戦したというあたりも、より怪しさを醸し出してくる…。テレビで見ている印象に過ぎないが、もし同じ行動ととったとしても、吉村大阪府知事だったら、内野席あたりで庶民に紛れていたのではないかと思ってしまう。

 

もちろん、これらの疑いを証明することは難しい。報道も、表面的な事実を淡々となぞっているだけで、これらの疑問の解決につながるような深堀りは一切なされていないようだ。したがって、知事の責任問題に発展することはなかろう。しかし、公式に責任は問えなくとも、「この人、怪しい…」という思いが、人々(企業人であれば、従業員や部下)の心の中に生まれてしまうのだ。

政治の世界ではどうだかわからないが、企業人であれば、公式の“お咎め”は免れても、マネージャーとしては致命的失敗だ…もう部下はついてきてくれないかもしれない。

 

また、経営陣の視点からは、ミスをミスとして認めることを是とする風土づくりにも努めなければならない。

ちょうど同時に巻き起こった「アベノマスク8千万枚問題」がその典型だ。

施策として、これが有効、有益だったと本気で考えている人はどこにもいないだろう。ただ、それを認めようものなら、野党はもちろん、メディアによる袋叩きは目に見えている。過ちを素直に認めて是正したことを評価する声など、残念ながら期待できない。したがって、政府、行政として「認めるわけにはいかない」のだ。

例外的な事例や社交辞令の類までをも引っ張り出してその正当性を主張し、「嵩張るものでもないのだから備蓄しておけばいい」といった“逆ギレ”としか言いようのない発言にもつながるわけだ。傷口を広げることにしかならないことが明白でも、間違いを認めず、押し通す…民間企業でも見られることであり、心当たりのある人も少なくなかろう。

俗に言われる『減点主義』の風土が、こうした現象を生んでしまうのだ。

 

不正は言うに及ばず、怠慢は徹底的に糾弾されてしかるべきだ。しかし、何でも許せということではないが、ミスには寛容な部分も見せておかなければ、正しい判断(修正)が行われなくなるということは心得ておくことが必要だ。

 

コメント

このブログの人気の投稿

年金の「繰上げ受給」「繰下げ受給」について考える

去る 5 月 29 日、年金改革関連法案が成立しました。 パートなどの短時間労働者への厚生年金適用拡大や、 60 ~ 64 歳の間の在職老齢年金制度における減額基準の引き上げ( 28 万円から 47 万円に)に加え、年金受給開始時期の 75 歳までの繰り下げが可能となりました。(いずれも 2022 年 4 月から実施)。 今回は FP の立場から、年金の繰り上げ受給、繰り下げ受給について考察してみましょう。   年金の繰上げ受給と繰下げ受給とは? まず、繰上げ受給、繰下げ受給について簡単に整理しておきます。 老齢年金は 65 歳からの受給開始が原則ですが、実は、現行の年金制度でも、この受給開始時期を 60 ~ 70 歳までの間で変更することが可能で、 65 歳より前に受給を開始することを繰上げ受給、後に受給を開始することを繰下げ受給といいます。 今般の法案成立により、この選択肢が 60 ~ 75 歳までに広がります。 年金の繰上げ受給とは、年金の支給開始年齢を前倒しにすることで、前倒し期間に応じて年金受給額が月あたり 0.5 %減額されます。例えば、 61 歳で繰上げ請求すると、 4 年( 48 か月)前倒しで受給する分、年金は 24 %(= 0.5 %× 48 ヶ月)減額され、 76 %が支給されます。逆に繰下げ支給とは、支給開始時期を後ろ倒しにすることで、その期間に応じて年金受給額が月あたり 0.7 %増額されます。(下表参照) 【支給開始年齢別の支給率(抜粋)】 ※    受給額に応じた税金は考慮しておらず、また端数処理も行っていないため、実際の手取りとは異なります。(以下、全表同様)   繰上げ受給、繰下げ受給のメリット・デメリット 繰上げ受給のメリットは、すぐに年金の受け取りを開始できることです。 無年金期間であるはずの 65 歳まで間に収入を確保できるのはありがたいことですが、繰上げ支給による減額率は、一生涯続きます。 65 歳になったら、本来の支給額に戻るということはありませんので注意してください。 繰上げ受給者の請求理由として最多の「長生きすると思っていない」にはコメントのしようがあり

今後のマンション価格はどうなる? ―「マンション・バブル」の崩壊はあるのか?―

  全国のマンションの平均価格は上昇を続け、ついに首都圏の新築マンションの平均価格は、過去最高値 (6,123 万円= 1990 年 ) を超える 6,260 万円に達し、「不動産バブルの再来」とも言われています。 このような状況の中でもマンションを購入している人たちからは、将来のマンション価格の上昇を見越して、「いまのうちに購入しておきたい」という声も聞かれます。 これはまさに、“買うから上がる。上がるから買う”という、バブル期に土地や株が高騰した時の状況に酷似していますが、今後のマンション価格はどうなるのでしょうか。   マンション価格の推移 マンション価格のこれまでの推移を見てみると、下表のとおり、 2008 年のリーマンショックにより、一時、下落したものの、近年では、新築・中古ともに上昇傾向にあます。     住宅価格の上昇の中でも、マンション価格の上昇は突出! 日銀の異次元金融緩和政策の下で住宅ローン金利も記録的な低金利となっており、「住宅購入には絶好のタイミング」と言われています。「不動産価格指数」(国土交通省)からも、近年の住宅価格は着実に上昇を続けており、旺盛な需要があることがわかります。 その中でも特筆すべきがマンションであり、戸建住宅等と比べるとマンション価格の上昇には、目を見張るものがあります。 低金利を追い風に住宅取得需要が増加する中でも、特にマンション価格が大きく上昇した理由としては、以下が考えられます。 ・建築資材や人件費などの建築コストの上昇 ・都市部への人口集中に伴う需要の増加 ・相続対策や資産運用手段としての需要の増加   建築コストの上昇は、マンションだけに影響するものではありませんが、戸建て価格の相当部分は土地代であり、都市部ではその過半を占めることも少なくありません。これに対してマンションは、その価格の大半は建物(建築)価格であるため、建築コストの上昇の影響をより大きく受けるわけです。   次に、都市部への人口集中による需要の増加です。 コロナ禍以前、住居に関して「都心回帰」の動きが注目されていたことをご記憶されている人も多いでしょう。現役世代のみならず、か

普通の家庭でも「遺言書」を書くべき理由とその作成要領

   「遺言書なんて…、そんな大袈裟なことをするほどの財産はありませんよ」。  相続のご相談において、よく聞かれる言葉です。  遺言書には、 l   相続トラブルの大半を占める遺産分割トラブルの回避 l   特定の人に特定の財産を引き継ぐ自分の意思を伝える といった意義があることは広く知られていますが、今後の相続においては、 l   第三者の介入により相続が紛糾してしまうリスクの回避 という点が、これまで以上に重要な意味を持つようになると考えられます。 遺された家族が無事に相続を乗り切るための手助けとして、 是非、その作成を考えてみましょう。   遺産分割トラブルの回避 相続 といえば、映画やドラマの中では、多額の遺産をめぐって遺族同士で揉める “争族” が描かれることも少なくありません。しかし、私の経験からは、多額の遺産が見込まれる人は、万全の事前準備の下でスムーズに手続きが進むことのほうが多く、トラブルは、「たいした“財産”もないし、うちに限ってそんな心配はない」と高を括り、特段の準備をしていなかった家で起きることのほうが多いように思います。 実際、最高裁判所が毎年刊行する『司法統計』によると、例年、家庭裁判所に持ち込まれる遺産分割事件(調停や審判)は 1 万 2 千件前後に及びますが、その約 3 / 4 が、遺産総額が 5 千万円以下の案件( 1 千万円以下に絞っても全体の 1 / 3 強)となっています。 “裁判沙汰”になっている相続事案の大半が、遺産総額がそれほど大きくないケースなのです。そして、 そのほとんどが 分割トラブルです。 「相続財産と呼べるようなものが自宅しかない」ケースはその典型例ですが、相続財産に占める実質的に分割が難しい資産の割合が大きい場合、これを相続する人と、他の相続人との間に大きな差が生じることになります。また、家業を営んでいるケースでは、自社株や個人名義となっている事業用資産等を跡取りに集中させることが望まれますが、この結果、他の相続人に相続させる財産がなくなってしまうこともあります。 こうした不均衡が、例えば「兄がすべてを相続し、自分には何もないなんておかしい!」といった不満となり、相続トラブルに発展してしまうことが少なくないのです。 あるいは、相続人それぞれの事情や考え方によ