「Go To トラベル」キャンペーンの強行に対する批判が多い。
日々、東京都を中心に、多くの新規感染者が確認される中での「観光促進キャンペーン」は、感染の拡大を助長するものであり、中止、または延期すべきだという意見だ。
まず、筆者の意見を明らかにしておくと、賛成とは言い辛いが“容認派”だ。
本ブログ内『「コロナショック」は回避できるのか?』でも記したとおり、中小地域企業は、今、来月あたりが「我慢の限界」であり、これ以上極端な自粛が続けば、事業活動は深刻な局面を迎える可能性が高い。
特に観光、宿泊関係への打撃は強烈で、筆者のヒアリングベースでは、4月以降、温泉関連企業の売上げは限りなくゼロに近く、ビジネスホテルもその多くが前年同月比で10~20%の売上げに留まっているなど、通常であれば、完全に破綻だ。総務省の「家計調査」を見ても、5月の宿泊費支出は前年同月比97.6%減と、筆者周辺の事象が特殊事情ではないことを証明している。
同様の状況は、飲食業やレジャー、エンターテイメントなどの娯楽業にも広がっており、前年同月比50%水準の売上げをキープできているところは、多くはない。
ここで、自粛がもう1,2か月続いたら、観光地の多くはゴーストタウンになってしまうかもしれず、「支援策を打つなら今が最後のチャンス」だろう。
ここ数日の感染状況を見れば、手放しで賛成はできないが、「やるべきなんだろうな…」という思いだ。
実際、当事者である観光地の宿泊施設や飲食、小売店からは、もちろん不安を抱えつつではあるが、ようやく仕事が再開できることへの安堵の声しか聞こえてこない。
また、新型コロナウイルスに関しては、現時点ではワクチンも治療薬もない。加えてSARS等とは異なり、無症状、あるいは潜伏期間にある人からの感染もある。こうした点から、終息宣言が出る可能性はなく、長期にわたる共存を覚悟すべきと言われている。
つまり、延期しても、「然るべきタイミング」の目途は立たない…。
今般も、一定程度の鎮静化という状況の中で緊急事態宣言(海外では外出禁止令等)を解除し、人が動きはじめたわけであるから、自粛期間中を上回る感染者数が確認されることは、はじめからわかっていたことだ。
そして今、我々大衆に知らされている範囲では、検査数が大きく増えたために感染確認者の数は増えてはいるが、陽性率が高まっているわけではなく、その多くが無症状、または軽症者であり、医療体制もひっ迫した状態にはない、というものだ。これを信じれば、感染した方や治療にあたっている方には申し訳ない言い方になるが、想定内の感染拡大だ。
観光業に従事する人は845万人、リネンや食材納入など、旅館・ホテルを相手に仕事をしている周辺事業も含めると、従業者はその3倍ともいわれている。また、日本の国内観光がGDPに占める割合は4%程度で、「金融・保険業」(4.2%)や「教育産業」(3.6%)に匹敵し、「情報通信業」(4.9%)にも引けを取らない“大きな産業”だ。これが今、瀕死の状態にあるのだ。
確実な治療法もなく、後遺症まであると言われている新型コロナウイルスに、誰も好き好んで感染しようとは思わない。感染防止のみを考えれば、感染症の専門家が語るように、家でじっとしているのが一番なのだろう。「家から出なければ、交通事故にあうことはない」のと同じだ。ただ、人が生きていくためには、生命を守り、(ウイルスに感染することなく)健康体でいることに加え、穏やかに暮らしていけるだけの“稼ぎ”も必要だ。そのためには、経済も動かさなければならない。
“今の状況”が、どちらに重きを置くべきなのかは、時々刻々に変化もするし、地域差もあるが、政治にも国民にも、どちらかに偏ることのないバランス感が必要だ。
加えて、我々国民も、もっと自立し、自己責任で物事を判断できるようになるべきだ。
今般の「Go To トラベル」も、何も旅行を(結果的に推奨していることにはなるが)強制する政策ではない。個々人の判断として、行きたくない、行くべきではないと思うのであれば、そういう選択をすればよい。誰も、これを批判などしない。
もともとは政府も、「Go To」キャンペーンは、コロナ危機が去ってから実施するつもりだった。しかし前述のとおり、残念ながらその時間的猶予を持つことができなくなったために、リスクがあることを承知で“強行”することにしたわけだ。そして少なくとも今回に限っては、その事実を認めて「十分な対策」を求め、安心だとは言っていない。
政府には、施策を強行する責任を重く受け止め、正確な情報を開示するとともに、万一、懸念されているような状況が垣間見えれば迅速な対応を期待したい。
旅館やホテルをはじめとする旅行・観光業界には、施策強行の意図を改めて考えていただくとともに、世間の懸念を十分に認識し、自らの施設が“クラスター”となることのないよう、考え得る最大限の対策を講じる義務があるものと自覚してもらわなければならない。
一方で我々は、「withコロナ」、すなわち、感染リスクを完全に排除することはできないことを前提に、例えば今般の施策では、観光・旅行業界が瀕死の状態にあることも理解し、「自粛」という“安直な対策”を無為に支持するのではなく、感染対策と経済活動が両立できるよう建設的な意見を交わせる世論を作っていく必要があろう。
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