金融庁による『NISA口座の利用状況調査(2019年12月末時点)』によると、NISA口座(一般NISA、およびつみたてNISA)の開設者は1,092万人余りで、対象人口の10.4%に過ぎません。しかも、両NISA合わせて、その53.6%が使われていません(残高ゼロ、かつ2019年中に一度も買い付けがない)。つまり、実質的な利用者は、対象人口の4.8%しかいないのです。
なお、取扱金融機関等へのヒアリングからは、iDeCoの口座開設者は、NISA以上に少ないようです。ただ、こちらはDCとの絡みもありますので、単純に口座数の多寡から投資姿勢を捉えることは難しい面もあります。会社員等で、勤務先がDCを導入している場合、『確定拠出年金』としてはそこで実施済みですから、さらにiDeCoに加入する必要はないという考えも成り立つからです。
さて、話をNISA に戻しますが、NISAは、これに代わる非課税制度はありません。
DCやiDeCoもある中で、さらに『つみたてNISA』は、自分の投資スタイルには合わないという人もいるでしょうが、一般NISAなら、120万円以内の購入株式等による配当や売却益を非課税にできるだけのことで、何ら損になることはありません(“ワンショット”が120万円では収まらないような投資しかしていない人は別ですが…)。株式投資等を行っていながら、敢えて非課税枠を使わないという選択は稀でしょうから、20歳以上の8割を大きく超える人たちが、株式投資等自体を行っていないと考えるのが普通でしょう。
特に、昨今の若者は、お金の問題に対しての意識が高く、堅実と言われていますが、このNISAの利用状況からはそれが見えてこないことも、少し気になるところです。
一般論として、公的年金だけで老後の生活を成り立たせることが困難であることは、多くの人が認識していると思います。株式、投信等への投資は、絶対にやらなければならないものではありません。筆者も、投資に前向きになれないご相談者には、できるだけ投資をせずに済む方法をご提案させていただきたいとは思っていますが、残念ながら、一切投資を行わなくても大丈夫という恵まれた状況にある人は滅多にいません。
中高齢者世帯の4割近くが、もっと若いうちに資産運用に取り組んでおくべきだったと後悔しているとの調査結果もあるように、年齢を重ねると、経済的不安を解消するための選択肢が狭まっていくこと自体は間違いありません。投資に取り組まなくて、本当に自分の将来に問題がないのかを冷静に考える必要もあるのではないでしょうか。時間を味方にすれば、リスクは抑えることができますので、できるだけ早いうちに一歩を踏み出してみることが望まれます。
投資に不安がある場合、『つみたてNISA』で小さくはじめてみるといったことも考えてもよいでしょう。『つみたてNISA』では、投資対象となる投信は、販売手数料ゼロ、信託報酬1.5%以下の低コスト投信となっていますので、ドルコスト平均法を用いた投資であることも含め、投資初心者にはうってつけの仕組みです。
一方で、70歳以上の10万人に迫る人たちが『つみたてNISA』の口座を開設していることについては“金融機関等による押し売り”を疑わずにはいられません(上表中の赤枠)。
『つみたてNISA』は、基本的に10年後、20年後に向けた資産形成手段ですし、積立ての原資となる収入も必要です。マネー誌等で取り上げられたことをきっかけに、仮にお客様自身が興味を持たれ、希望されたとしても、金融のプロとして、その年齢からはじめることの妥当性についてしっかりと話し合い、誤解を恐れずに言えば、思いとどまらせることがあってもよい取引のはずです。それを押し切るほどの必要性と強い意志をもってはじめた人が10万人もいるとも思えません。挙句の果てに、口座開設はしたものの、42%を超える人が一度も買い付けをしていないわけですから、これはもう本人の強い意志で能動的に口座開設したものではないと考えて間違いないでしょう。
この点は、60代以上の人にも多分に当てはまることですが、ここでも18万口座以上が存在しています(上表中の赤枠)。60歳以上になるとリタイヤ層(再雇用等で収入が大きく減少している人を含む)が中心であり、「将来のために、毎月の収入からコツコツと…」という言葉で形容されるような資産形成が望まれる人は、そう多くはありません。
年金生活をしている人が、その不足を補うために年金から積立てを行うというのは、アプローチとして不可解ですよね。
この年代は、一般的には、ある程度まとまった資金を有していることも多いので、投資自体を行うにしても、5年以内をひとつの目安とした一般NISAのほうが適しているでしょう。
各人の資産状況や運用目的などによって、どのような運用方法が適切であるのかは異なってきますから、年代だけで運用方法を決めつけることはできませんが、魅力的な運用手段を見出すことが容易ではない超低金利時代にあって、せっかく認められている税制優遇制度ですから、有効に活用していくことを考えていくべきではないでしょうか。
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