新型コロナウイルス関連倒産が目立ち始めました。
『「コロナショック」は回避できるのか?』でも述べたとおり、特に中小零細企業においては、自助努力で耐えることに限界が来ています。
その影響は広範囲に及んでいますが、中でも大きな影響を受けている業界としては、飲食店等の外食産業、ホテル・旅館等の宿泊関係、旅行代理業、アパレル業界の中でもファッション性の高い商品を扱う企業、運輸業、パチンコホールなどの遊技業をはじめとする娯楽・レジャー産業、そして医療関係があげられます。
今後も注意が必要な業界は…
飲食店等には、外食産業と呼ぶにふさわしい大資本のチェーン店もありますが、その多くは個人経営の小資本事業体です。資本基盤が脆弱で早い段階から倒産が散見されましたが、一方で家業経営店舗等では、家賃負担がないなど、その身軽さを武器に耐えてきたところも少なくありません。しかし、「居酒屋」などを含む“夜の街関連”事業者を中心に再び試練の時が訪れることが懸念されており、今後、倒産・廃業が多発する可能性があります。
ホテル・旅館等の宿泊関係や旅行代理業については、近年のインバウンド需要の増加を受けて売上げが拡大していた反面、新規参入者の急増による熾烈な価格競争のため、利益率はむしろ低下傾向にあり資本の蓄積は進んでいませんでした。もともと大きな初期投資が必要で、固定費の大きな産業ですから、“トップラインの激減”のインパクトは他業態の比ではありません。ファーストキャビンやWBFグループなど、新興勢力として業容を拡大してきた事業者の大型倒産はその象徴といえるでしょう。
感染拡大の鎮静化や「Go toトラベル」などの支援策とともに同業界も落ち着きを取り戻すと思われていましたが、直近、ご存じのとおりの状況であり、感染拡大懸念の高まりから再び自粛機運が高まれば、経営が立ち行かなくなる企業が出てくる可能性は否めません。
これと並んで緊急事態宣言の発出当初から暗雲が立ち込めていたのがアパレル業界です。
普段着的な衣料品については、まだ落ち込みは限定的ですが、ファッション性の高い衣類は、不要・不急商品として大きな打撃を受けました。いわゆるブランド衣料については、近年では「(生産量の)半分売れれば御の字」といった状況にあるなど、華やかな表舞台とは対照的に、資金的には自転車操業状態にありましたから、売上げの低迷がこうした状況を招くことは十分に予想されたことです。
人の移動の制限・自粛により、旅客・運輸業も大打撃を受けていますが、中でも、通勤通学等の固定的需要の大きな鉄道とは収入構成が異なるバス・タクシー業界ではその影響は顕著です。こちらも元々利用者の減少に歯止めがかからず、資本蓄積の不十分な中小企業が多かったこともあり、白旗が上がることが多くなっています。
遊技業や、娯楽・レジャー産業についても、初期投資や設備の更新費用などの負担が重く、実は、規模の小さな事業者では資本の蓄積が進むほどの利益が計上できていないのが一般的で、特に遊技業では、世間の逆風もあり、事業継続を断念するところが増えてくるかもしれません。
そして医療関係事業者です。新型コロナウイルスに、文字通り矢面に立って対応してきた同業界ですが、そのために一般・外来診療等が激減し、資金繰り的には厳しい状態にあります。一時、ボーナス不支給を表明した病院があるなどの報道もあったとおり、医師や看護師に支払う給与・賞与にさえ苦労しているのが実情なのです。
医療報酬はその大半が保険給付によって賄われているため、お金の動きとしては2か月ほどのタイムラグがあります。つまり、緊急事態宣言下での「外来診療ゼロ」の結果は、7~9月の保険給付金に反映されてきます。先ごろ、医療法人のコロナ倒産第1号が報じられていましたが、この状況はここから本格化してくると言えるでしょう。
金融機関と行政による徹底的な再生支援を!
ここまで、影響が大きいと思われる業界に限定し、総論を述べてきましたが、特に中小零細企業においては、業種にかかわりなく厳しい状況に追い込まれるところが増えています。
これを受けて、「M&Aが加速する」などとも言われていますが、緊急事態宣言に絡む今回のような事態は、通常の商取引による結果ではありません。市場における需要が蒸発し、前年比7割減、8割減の売上げが半年も続くなどという事態は、想定すること自体がナンセンスな“超異常事態”であり、この中での存続危機は、決して「市場の論理」ではありません。
そのような中で“金持ち企業”が「チャンス到来」とばかりに有望な企業を買い漁ることは、(現象的には事実ですが)断じて望ましいことではありません。
銀行の中には、これを「手数料を稼げるビジネスチャンス」と捉える不届きな銀行もあるようですが、特に地域金融機関には、「こんなことで地元企業を売り渡してなるものか!」という矜持を見せてもらいたいと思います。
『巣ごもり消費』による特需で儲けた企業もありましたが、こちらはコロナ禍の中で国民生活を支えたという大義があります。一方、コロナで打ちのめされた企業を“食い物”にするようなビジネスは、いわば『乱捕り』(戦国時代の“戦さ”において、敗者や死者から鎧兜や刀剣、金品などを略奪する、武士にあるまじき卑しい行為)であり、こんなことで誰かを儲けさせてはなりません。(「敵対的」である場合も含め、通常のビジネスの中で正々堂々と行われるM&Aを否定するものではありません。)
地域経済・社会、ひいては日本経済の沈没を阻止するためにも、各金融機関や行政筋には、今回のコロナショックを「なかったこと」にするぐらいの気持ちでの徹底支援を期待します。そもそも“異常事態”によって歪められた市場を正すためですから、今回に限っては、少々、市場原理を逸脱した“強引な対策”も許されてもよいのではないでしょうか。
民間企業である金融機関に過度なリスク負担を強いることはできませんが、その分、知恵とネットワークを駆使した徹底的な事業再生支援を、行政筋には、これを実行するための時間的猶予を得るために、願わくば実弾支援を伴う思い切った支援制度等の検討を願いたいところです。
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