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不動産クラウドファンディングにおける運営事業者・ファンドの選び方

 不動産クラウドファンディング・サービスを通じた投資を行うためには、まず、どのサービスサイトに投資家登録(口座開設)するのか、すなわち運用事業者を選ぶ必要があります。

投資家登録自体は無料ですから、手当たり次第に登録しても問題はありませんが、個人情報を提供することにもなりますので、ある程度の絞り込みは必要でしょう。

 

不動産クラウドファンディングでは「事業者選び」も重要

不動産クラウドファンディングの運営事業者が経営破綻してしまうと、投資家の出資金が大きく毀損してしまう可能性が高まりますので、運営事業者自身の安全性は、投資を行う上で極めて重要なポイントとなります。

また、不動産クラウドファンディングは、ファンドが取得した不動産の賃貸収入から分配金が支払われ、当該物件の売却によって元本償還を行うことを基本とする仕組みですから、これが投資として成功するか否かは、ひとえに、運営事業者の賃貸運営管理能力と、その売却に対するプロとしての適正な見通しを持っているか否かにかかっています。

したがって投資家としては、不動産クラウドファンディングをはじめるにあたり、個別ファンドの条件以前に、運営事業者の企業としての安全性と、不動産事業者としての力量を確認すること、すなわち「運営事業者選び」が重要となるのです。

しかし、運営事業者の中には、財務や業績に関する情報を公開していない非上場の中小企業もあり、個人投資家が、こうした企業の財務基盤の安全性を確認することは困難です。また、不動産のプロではない個人投資家が、不動産事業者の力量を適切に見極めること、ましてや「聞いたこともない非上場企業」の力量の見極めなど、できるはずがありません。

そこで、有名な大企業や、一定の社会的信用力を有する上場企業が運営するサービスを選ぶというのも、理にかなった考え方となります。

 

上場企業が運営している不動産クラウドファンディング・サービスを選ぶメリット

運営事業者が上場企業であることは、その事業者が、不動産事業者としての目利き力や事業展開力などにおいて、上場を実現するレベルの力量を有していることの証となります。

また、監査機関による監査はもちろん、常に市場の評価にさらされている上場企業の場合、業務運営はもちろん、経営破綻リスクの低減に向けた必要条件の一つである内部統制面でも適切な管理体制が構築されているはずです(ここに問題があれば、大ニュースとなることは、皆さん、ご存じのとおりです)。

もちろん、不動産事業者としての力量に優れ、堅強な管理体制を有する非上場企業もありますが、これを個人投資家が認知するうえで、「上場」という事実は大きな意味を持ちます。

そして上場企業の場合、会社の財務情報(事業成績や資産状況)は公開されていますし、IRを通じて今後の事業計画や方針等を知ることもできます。一般的には、こうした企業情報の透明性の高さも、上場企業ならではのメリットと言えるでしょう。

これらから得られる「安心感」が、上場企業が運営するサービスを選ぶメリットです。

 

上場企業が、不動産クラウドファンディングを通じて資金調達を行う理由は?

ところで、少なくとも上場を認められるだけの財務基盤を持ち、証券市場からの調達を含む多様な資金調達手段を持つ上場企業が、なぜ、事業者目線では決して有利な資金調達手段とは言えない不動産クラウドファンディングを通じて資金を募るのでしょう。

その理由は、「さらなる知名度の向上」と、これを通じた「潜在顧客の獲得」です。

証券市場には約4千社の上場企業がありますが、そのすべてが高い知名度を誇るわけではなく、「(名前を)聞いたこともない」と言われてしまう企業もたくさんあるのが現実です。

不動産事業者の場合、この状態では、物件購入を検討するお客様が自社を訪れてくれる期待もできませんし、「聞いたこともない会社からの営業」と思われたのでは販促の効果も半減します。この解消のためにも、“不動産会社として知られている企業”になりたいのです。

上場は、一つのステイタスではありますが、世間的な知名度を高めていくためには、「日常的に見聞きする機会の多い企業」になる必要があります。これを目指して、まずは不動産に興味を持つ全国の個人投資家に対して自社をアピールしていく、その手段の一つが、不動産クラウドファンディングなのです。この事業に参入する多くの上場企業が、子会社等を用いず自社ブランドでサービスサイトを運営しているのは、このためでしょう。

また、地味感の否めない伝統的な不動産事業に、クラウドといったIT色を絡めることで、チャレンジ精神旺盛な革新的企業との印象を生み出すことが、株式投資家に対するアピールにもつながるとの考えもあるのかもしれません。

なお、増資等に伴う株式の希薄化や、有利子負債の増加による自己資本比率やROA(純資産利益率)の低下などを嫌気して、返済義務のない不動産クラウドファンディングを利用するという理由も考えられないわけではありませんが、現状の不動産クラウドファンディングの規模感から考えて、これが主目的となることは考えづらいです。

 

 

非上場企業が運営している不動産クラウドファンディング・サービスを選ぶポイント

運営事業者の安全性を最優先に、「石橋を叩いて渡る」のも賢明な選択だとは思いますが、上場企業が運営するサービス限定では、ファンドの選択肢が限られてしまいます。また、上場企業が募集するファンドが、優良案件で、投資商品としての魅力があるファンドであるとも限りません。逆に、非上場企業が募集するファンドが、イコール、ジャンク・ファンド(投資不適格ファンド)というわけではなく、想定利回りが魅力的であったり、投資対象に共感できるものがあったりと、運営事業者のことは知らないが、出資を検討したいファンドがあるということもあるでしょう。

投資家が、非上場企業の中から信頼できる運用事業者を選定していくには、運用事業者がこれまで積み上げてきた運用実績と、情報公開姿勢が有力な手掛かりとなります。

具体的には、以下のとおりであり、これらを参考に、気に入ったファンドへの投資を検討するのもよいのではないでしょうか。

 

≪運営事業者の基本情報≫

企業情報等が十分には得られないとは言っても、やはり可能な限りの情報は集めましょう。

財務内容や株主構成(親会社や有力な大株主の存在)に関する情報の入手は容易ではありませんが、設立(=社歴・業歴)、沿革、事業内容等、HPで確認できることも少なくありません。また、HP内でのウエイトの置き方(情報量)や、店舗展開等を含むその内容から、不動産事業にどの程度精通しているのかをうかがい知ることは可能です。

一方、運営事業者が提供する情報は、自分に都合のいい情報だけであることもありますので、例えば、当該事業者の評判や、同事業者が開発、売却、運営管理を行っている物件に関する情報や住み心地に関するレビューなどを「ググってみる」ことも必要です。

 

≪ファンド組成・償還の実績≫

不動産クラウドファンディング事業者のHPやサービスサイトには、これまでに募集したファンドの概要や、サービス開始以来の募集案件数、累計応募総額、償還実績、投資家登録者数などが公開されていることも少なくありません。これらを確認することで、多くの投資家から信頼を集めている事業者であるのか、実際、約束通りの分配や償還ができているのかを確認することができます。

 

現役投資家からの評判・口コミ

不動産クラウドファンディングサイト、並びにその事業者に対しても、実際に投資を行っている投資家の多くが、その投資経験や評価等をブログやSNS等で公開していることは少なくありません。こうした“現役投資家の生の声”も、事業者選びにおいては重要です。

 

≪投資対象不動産に関する情報公開の程度≫

不動産クラウドファンディングでは、投資対象となる不動産の情報は、募集時の商品概要等で公開されていますが、その情報公開の「程度」には差があります。投資家が投資判断を行うための情報が、丁寧に提供されている否かは、業者の姿勢を知るうえで重要であり、アバウトな情報で出資を募っている事業者は避けた方がよいでしょう。

具体的には、投資対象となる不動産の取得(予定)価額や運用期間中の想定賃料(分配金利回りではありません!)はもちろん、投資対象物件の間取り等の図面、物件の修繕履歴や修繕積立金滞納の有無、投資対象物件の耐震性能など、物件そのものの詳細情報に加え、物件周辺の人口動態や近隣の賃貸物件情報といったマーケティング情報など、投資家目線での情報公開の有無も、信頼できる事業者であるか否かを判断するうえでは重要な要素です。

 


 非上場企業である運営事業者が信頼に足る事業者であるか否かは、以上のとおり、これまでの運営実績や評判、情報公開を通じた企業の姿勢から判断するしかありませんが、これは事業者の企業としての安全性を保証するものではありません。したがって、特に非上場企業が募集するファンドへの投資では、短期投資を基本に考えるのが無難でしょう。

 

ファンド選びのポイント (上場企業運営のファンドにも共通)

事業者選びが済めば、次はいよいよファンド選びです。

ここではまず、自身の投資目的を明確にしましょう。詳細は本ブログ内『投資商品としての不動産クラウドファンディングの価値』を参照いただきたいと思いますが、相続税評価額の低減や「腰を据えた不動産投資をしたい」と考えているのであれば「任意組合型」のファンドを選ばなければ、これを実現することはできません。逆に、投資として分配金を稼げればそれでよいのであれば、リスクの小さい「匿名組合型」を優先するのが無難でしょう。

そのうえで、ファンド選びのポイントとしては、「期待利回りをはじめとする取引条件」、「投資対象不動産の特徴」、「劣後出資割合」の3点が挙げられます。

 

≪期待利回りをはじめとする取引条件≫

不動産クラウドファンディングでは、期待利回りに目を奪われがちですが、中途解約ができないのが一般的ですから、投資期間にも注意を払わなければなりません。「期間延長」という不測の事態も念頭に、最大投資期間をどの程度と設定し、そこで何%の利回りを期待するのかの目途をもって、その条件でファンドをふるいにかけましょう。

なお、ここで注意すべきは、提示されている利回りは「年率換算」であるということです。「期待利回り8%!10万円投資すれば8千円だ!」は早計です。投資期間が3か月(1年の1/4)であれば、単純計算で受取額は2千円(税引前)です。

また、最低投資額はファンド毎に異なりますので、見落としのないようにしてください。

 

≪投資対象不動産の特徴≫

不動産クラウドファンディングでは、投資対象となる不動産の詳細(スペック)が公表されています。

先の利回りも、想定通りの賃料が収受できることが大前提ですし、最終的には物件の売却によって投資元本を償還することを前提にしているのが基本(※)ですから、投資家としては、利回り等の金融条件のみならず、物件の立地や用途(居住用、店舗など)、築年数、設備状況、あるいは掲載されている写真等から外観等を確認し、「この物件でこの条件(想定賃料や取得価格)なら納得」と思えるか否かを基準に投資判断を行うことが肝要です。

なお、賃料相場については、地域差が大きいので、自身の感覚に頼るだけではなく、念のためでも何でも、賃貸不動産サイト等で、物件所在地における類似グレード物件の賃料相場を確認することを、強く、お勧めします。

   時折、リファイナンス(新たに出資者を募り、その出資金をもって現在の出資者への元本償還を図ること)を前提としているファンドも見られますが、このスキームには要注意です。予定しているリファイナンス・ファンドに資金が集まらないリスクも当然ですが、なぜ売却しないのか、売却を意図していないのなら、なぜ物件保有期間との整合性のない募集を行っているのかなど、募集背景への疑問が生じます。「(短期投資を好む)投資家のニーズに合わせた商品設計の結果」という善意解釈もできますが、「ポンジスキーム」と呼ばれる「最終的な返済見込みのない資金を、リファイナンスを繰り返すことで先送りしている」可能性も否めません(自転車操業と言えばわかり易いでしょうか?)。投資家としては、投資対象物件の特徴を踏まえ、その募集条件に違和感がないファンドを選ぶべきでしょう。

 

≪劣後出資割合≫

劣後出資割合とは、物件の売却に伴い損失(売却損)が生じた時に、運営事業者がどこまで損失を被るのかを示すものです。(詳細は、本ブログ内『投資商品としての不動産クラウドファンディングの価値』を参照ください)。したがって、投資家にとっては、この劣後出資割合が高い方が、元本割れのリスクが低減され、安全だということになります。

かなり乱暴であることを承知で言うと、劣後出資割合は、20%程度が平均的な水準であり、これを基準にその多寡を考えればよいと思いますが、この数字に拘り過ぎることはお勧めできません。前述の物件特徴なども踏まえ、「この物件が購入価格を下回る価格でしか売れない可能性」をじっくり考えて、「この物件に、これだけバッファーがあれば安心だ」と思えるか否かで判断することが必要です。例えば、時折、既に売却が決定している「ブリッジ案件」と呼ばれるファンドもみられますが、こうしたファンドでは、仮に劣後出資がなくとも、元本割れリスクは極めて小さいと言えます。

 

最後に ―運営事業者の狙いも理解して、魅力的なファンドを探そう!―

事業者が、不動産クラウドファンディング・サービスを提供するためには、資本要件を充足したうえで、都道府県知事(または国交大臣)から『不動産特定共同事業法』に基づく許可を取得し、必要なシステム開発等を行うなど、多額の初期投資が必要となります。

事業開始後も、参入事業者の増加に伴う投資家争奪戦の激化や、類似商品でありながら多くの優位性を持つJ-REITとも競合する中で投資家の興味を惹くためには、そもそもの“売り”である「高配当」の提示は不可避です。このため、資金調達手段としての不動産クラウドファンディングは、調達コストの嵩む(利益を圧迫する)手段であり、決して有利な資金調達手段ではありません。

また、出資の中途解約が不可であることや、環境変化によるリスク軽減のため、投資家は、数ヶ月~1年未満の短期運用を予定するファンドを好む傾向があり、分譲物件以外の使い勝手は悪いのが実情です(=長期資金の調達は難しい)。

こうしたデメリットを背負いながらも、事業者が、不動産クラウドファンディング事業を推進する理由は、一般に、「①不動産事業者のリスクを抑えた不動産投資の実現」や、投資用不動産案件を取り巻く環境の変化に伴う「②自社開発の投資用不動産の新たな売却先の確保」、あるいは分譲事業者による「③不動産投資に興味を持つ“見込み客”の獲得」などが挙げられます。

これを投資家目線から見ると、③については、不動産クラウドファンディングを、事業者が、自社のマーケティングやブランディングに利用しているということですから、“思わぬサービス案件”の出現の期待もできるかもしれません。

一方、①については、「身の丈を超えた投資に伴うリスクを投資家に押し付けている」ということにもつながりかねませんし、②についても、「通常ルートでは売却できない売れ残り物件の処分サイトであり、投資家が“残飯処理”に利用されている」といった批判があるとおり、歓迎すべき理由とはいい難い面もあります。

こうした批判の背景には、「普通に売れる、資金調達できるなら、わざわざ(事業者にとってのデメリットも多い)不動産クラウドファンディングを利用する必要はなく、何か“裏”があるに違いない」という思いがあるのでしょう。

実際、不動産クラウドファンディングでは、通常ルートでは売れにくい物件や銀行融資の付きにくい物件が投資対象となることも少なくありませんが、それをイコール「くず案件」と決めつけるのは早計です。養老・障がい者施設などの福祉性の高さが、通常ルートでは売りにくい理由かもしれませんし、古民家再生事業など社会性が高い一方で、物件の評価額が出ない(担保価値がない)ことが、銀行融資が付きにくい理由であることもあります。

 

投資対象不動産を選定するのは事業者であるという不動産クラウドファンディングの特性上、事業者が上記のような利己的な理由からファンドを組成することを排除することはできませんが、最終的な投資判断を行うのは投資家自身です。したがって投資家としては、なぜ、この物件が不動産クラウドファンディングの投資対象となっているのかを考え、そのうえで、当該ファンドへの投資に魅力を感じることができるのかを判断することが必要です。

 

もともと、ソーシャルレンディングの派生形として誕生した不動産クラウドファンディング…、「1ファンド1物件」を基本とすることから、どんな運用を行うのかまではっきりと見えるという特徴を活かし、投資商品としての魅力とともに、共感できるファンドを探してみるという視点を持つのもよいのではないでしょうか。

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